ピーター・トッド=サトシ・ナカモト説 — HBO「Money Electric」の主張と反証

2024年10月8日、HBOがドキュメンタリー「Money Electric: The Bitcoin Mystery」を公開した。監督はカレン・ホーバック(「Q: Into the Storm」で知られる)。作品はBitcoin Core開発者ピーター・トッドを、ビットコインの匿名の創設者サトシ・ナカモトの候補として名指しした。

フォーラム投稿理論:

ドキュメンタリーの中心的な証拠は、2010年12月のBitcoinTalkでのやり取りだった。サトシがトランザクション置換——後にReplace-by-Fee(RBF)として知られる概念——を説明した。その約1時間半後、トッド(ユーザー名「retep」、Peterの逆綴り)が技術的な指摘で返信した。

「もちろん、正確に言えば、2つ目のトランザクションに手数料がある場合、入力と出力は正確には一致しない」

これはトッドのBitcoinTalkでの2回目の投稿で、登録からわずか3日後だった。ホーバックは、トッドがサトシのアカウントではなく自分のアカウントから誤って投稿した——つまり返信ではなくサトシの投稿の続きだった——と主張した。両方のアカウントはその後沈黙し、サトシの最後の公開投稿は2日後の12月12日だった。

RBFとの接続:

ドキュメンタリーは、このやり取りからトッドが後にBIP 125(2015年)でReplace-by-Feeを正式化した事実への線を引き、トッドはサトシが始めたことを完成させた——同一人物だから——と論じた。ホーバックはまた、トッドが以前RBFパッチを別名義で提出していたことにも言及し、異なるアイデンティティで活動するパターンがあると示唆した。

その他の状況証拠:

  • ビットコインが誕生した2008〜2009年当時、トッドはOCAD University(2011年卒)で美術の学位を取得中だった
  • アダム・バック、グレゴリー・マクスウェルとのBlockstreamでの関係
  • ブロックサイズ論争中の2014年にサトシのアドレスから送信されたとされるメール

トッドの反応:

「ああ、そうだよ、俺がサトシだ」

「もちろん俺がサトシだ。ついでにクレイグ・ライトでもある」

トッドは皮肉と怒りをもって主張を退けた。ドキュメンタリーを「無責任だ」と呼び、推定700億ドルのビットコインの保有者として名指しされることは身の安全を脅かすと述べた。トッドは、自分がビットコインに取り組み始めたのは2014年——ナカモトの消失から6年後——だと主張した。

ただし、BitcoinTalkの記録はこの主張に疑問を投げかける。2010年12月10日、登録からわずか3日の「retep」は、ビットコインの創設者サトシ・ナカモトのトランザクション置換の説明に対して「Of course, to be specific(もちろん、正確に言えば)」と切り出し、技術的な訂正を加えている。OCAD University在学中の美術学生が、ビットコインの設計者に向かって 当然のように 手数料の仕組みを指摘したことになる。この振る舞いは「2014年からBitcoinに取り組んだ」という主張と整合しにくい。さらに、この返信の後トッドは1年4ヶ月にわたりBitcoinTalkで完全に沈黙しており、サトシの最後の公開投稿はトッドの返信からわずか2日後だった。

批判的な評価:

ドキュメンタリーはビットコインコミュニティから広く批判された。Bitcoin Magazineは「ビットコインへの侮辱——皮肉で、愚かで、危険」と題した記事を掲載した。批評家たちは、暗号学的証明も、文体分析も、美術系の学生がどうやって新しいコンセンサスメカニズムを設計できたかの説明もなく、状況証拠と偶然の一致に完全に依存していると指摘した。

トッドは後にこの作品の手法を「偶然の一致に基づく陰謀論的思考だろ」と切り捨てた。

[このドキュメンタリーは、ホーバックにとって匿名のインターネット上の人物を追跡する2作目の調査だった。1作目の「Q: Into the Storm」(2021年、QAnon運動を追ったシリーズ)は概ね好評だったが、「Money Electric」はビットコインコミュニティと主流メディアの双方から否定的に受け止められた。]


考察:3つの時期にわたる文体の変遷

トッドの公開された文章は、3つの時期で顕著な変化を見せる。

  1. 最初の投稿(2010年12月7日): BitcoinTalkでの初投稿——「招待1つ、2ドルで買う。DMで。」——は極限まで簡潔。主語なし、省略語、個性ゼロ。クラシファイド広告のように、誰が書いたか判別不能な文体。トッドの後年の文体も、サトシの抑制的な精密さも、ここには現れない。
  1. 2番目の投稿(2010年12月10日): サトシへの返信——「もちろん、正確に言えば、2つ目のトランザクションに手数料がある場合、入力と出力は正確には一致しない」——は冷静で技術的に正確、抑制的。冒頭の「Of course」にはさりげない確信が漂うが、全体の語調は中立的。罵倒、自虐、攻撃的な皮肉——後にトッドの文体を定義づけるもの——はまだ見られない。
  1. 2012年以降: トッドの文体は極めて特徴的で一貫したものになる。頻繁な罵倒、自虐的ユーモア、修辞的な攻撃性、アスタリスクによる強調の多用、挑発的なスタイル。この文体はブログ、メーリングリスト、SNSにわたって10年以上にわたり驚くほど安定していた。

個性ゼロから、中立的な精密さへ、そして強烈な個性へ——この段階的な変遷は珍しい。一般的に、書き手は若い頃のほうが感情的で、経験を積むにつれて抑制的になる。トッドの場合はその逆に見える。

考察:開発活動タイムライン

トッドは2008年4月13日にGitHubアカウントを登録した。サトシ・ナカモトはSourceForge(SVN)でBitcoinを開発していた。両者の公開された活動記録は以下のようにまとめられる。

期間トッドの公開された活動記録(GitHub)サトシ・ナカモトの活動(SourceForge / BitcoinTalk)
2008年4〜12月活発、15リポジトリ——すべてハードウェア/電子工学(時計、エントロピーオシレーター、カウンター、ファームウェア、PCB)。2プロジェクトに「Shipped」コミットあり。最終コミット:12月9日10月:ホワイトペーパー公開
2009年コミットゼロ、新規リポジトリゼロ1月:ジェネシスブロック。SourceForgeで活発な開発、BitcoinTalkでフォーラム参加
2010年ほぼ休止——小規模なリポジトリ1つ(2月)のみ、継続的な活動なし。BitcoinTalk:登録(12月7日)、サトシへの返信(12月10日)SourceForge / BitcoinTalkで12月12日まで活動(最後の公開投稿)
2011年新規リポジトリゼロ。OCAD University卒業(Integrated Media専攻)撤退。最後の既知のプライベートメール
2012年5月初のBitcoinリポジトリ——hardware-bitcoin-wallet
2012年9月Bitcoin Coreをフォーク。急速なBitcoin開発が始まる

トッドのGitHub公開活動の空白期間——おおよそ2008年12月から2012年初頭——は、サトシ・ナカモトのSourceForgeおよびBitcoinTalkでの活動期間と重なる。

トッドの2008〜2011年に作成されたGitHubリポジトリ:

リポジトリ作成日言語OS手がかり説明
vimfiles2008-04-15VimL~/.vim(Unix)職場で共有していたvim設定
alternate-pace2008-05-24別のペースを刻む時計
alternate-pace.elec2008-05-28Shell#!/bin/sh、UnixパイプラインAlternate Pace——電子回路
alternate-pace.firm2008-05-28C/usr/share/sdcc//usr/share/gputils/(Linux FHS)Alternate Pace——ファームウェア
entropy-oscillator2008-05-25エントロピーオシレーター
entropy-oscillator.elec2008-08-28Pythonエントロピーオシレーター——電子回路
entropy-oscillator.firm2008-08-28エントロピーオシレーター——ファームウェア
meter-clock2008-06-07メータークロック
meter-clock.schem2008-06-07Shellメータークロック——回路図
meter-clock.hard2008-06-07メータークロック——PCBレイアウトとハードウェア設計
meter-clock.firm2008-11-09メータークロック——ファームウェア
64-bit-counter2008-06-0964MHz源で駆動される64ビット不揮発性カウンター
64-bit-counter.elec2008-06-09KiCad64ビットカウンター——電子回路
64-bit-counter.firm2008-06-09C64ビットカウンター——ファームウェア
metesky2008-08-20Python部品表(BOM)管理ツール
(2009年——リポジトリなし)
congestion2010-02-24Python#!/usr/bin/python、PyGTK(GNOME/Linux)、vim modeline交通渋滞シミュレーション(Python/Cython、Cairo描画)。2〜4月に約30コミット後、活動停止。OCAD大学の課題の可能性
(2011年——リポジトリなし)

すべてのOS指標がLinuxを示している——ハードコードされたLinux FHSパス(/usr/share/)、Unixシバン、PyGTK(GNOME/Linuxネイティブのツールキット)。いずれのリポジトリにもWindows関連のファイル、パス、ツールは一切現れない。